バイオインフォマティシャンとして掲げる3つの目標 型にはまらない新しい働き方で、“1歩進んだ研究”に挑む

MGTx STORYでは、メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)の各メンバーが、入社のきっかけや事業にかける思いを語ります。今回は、MGTxで腸内細菌叢のメタゲノム解析に取り組む、渡邊日佳流のストーリーです。

渡邊日佳流
渡邊 日佳流(わたなべ・ひかる)
メタジェンセラピューティクス株式会社 創薬事業部 シニアバイオインフォマティシャン
<経歴> 
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 生命理工学コース卒業 博士(理学)。メーカーにてiPS細胞の分化に関わる研究に従事し、2022年5月にMGTx入社。

生物と化学を専攻した学生時代

小さい頃から生き物全般に興味があり、生き物のドキュメンタリーを観ることや外で虫を採ったりすることが好きでした。中学卒業後は地元の福岡にあった高専(高等専門学校)に進学し、生物と化学を両方学ぶことができる生物応用化学科を選択しました。5年制の高専では4年生になる時点で専門に分かれるのですが、生物か化学のどちらを選択するか悩んだ末に、生き物(生命)の研究をする上で化学の知識が不可欠だと考え、化学を選択することにしました。

その後、東京工業大学に編入し、MGTxのSenior Scientific Advisorである山田の研究室で、生命情報科学(バイオインフォマティクス)の研究を進めることになります。高専では化学の道に進みましたが、それはもともと好きだった生き物(生命)の研究をする上で化学の知識が不可欠だとされていたためです。それを経て、大学では生物系に進んでゲノムに関する研究に携わりたいという気持ちでいました。具体的には皮膚や土壌、水中などの環境をひとつのゲノムの集合体として解析する、メタゲノム解析に興味を持ちました。とくに山田の研究室は「ヒト常在菌」が研究対象であり、卒業時は皮膚にいる常在菌をターゲットに研究を進めました。この頃の経験が、現在行っている便に含まれる腸内細菌叢の解析に役立っています。

きっかけはコロナ禍

大学卒業後は、友人の誘いがありメーカーでiPS細胞に関する研究に従事することになります。それまで行っていたマイクロバイオームとは異なるバイオインフォマティクスの技術が使われている領域でした。細菌の研究からヒトのiPS細胞の研究に移行したのですが、どちらも楽しさを感じながら、研究に励むことができました。

前職は、結果的に約3年間在籍しました。入社2年目にコロナ禍に突入したことで働き方が出勤スタイルからリモートワークに代わり、物理的にも意識的にも大きな変化があったことが、現職につながるきっかけになりました。それまで出社に往復3時間かけていた時間に空きができ、そのタイミングで山田からバイオインフォマティクスを使った副業の話を持ちかけられたのです。じつはその副業がMGTxの仕事だったのですが、そのときは余裕ができた時間を活用できると思い、引き受けることにしました。

2つの意味で“前例を作る”試みに共感

その副業がきっかけで、代表の中原と出会うことになります。MGTxが挑戦しようとしているFMT(腸内細菌叢移植)の社会実装の話などを聞き、新しいことに携われることへの興味や期待感に、純粋に楽しそうという印象を抱きました。中原からは「副業と言えども会社の雰囲気も見てください」と言われつつ、1年ほど副業をしました。内容としては腸内細菌のデータ解析で今取り組んでいる内容とほぼ変わりなく、このとき副業としていた仕事に、現在は本業としてリソース100%を注いでいるという感じです。

MGTxの第一印象は、会社の向かうべき先・目的がはっきりしていて、意義深いテーマを扱っているということです。現時点では難治とされている潰瘍性大腸炎の患者さんをはじめ、その他の難病を持つ患者さんたちをが持つ願いを、自分たちが実現化するFMTによって叶えることができる可能性に、仕事に対する使命感ややりがいを見出すことができると感じ、入社を希望しました。

また、場所にとらわれない新しい企業の形にチャレンジしているという点にも魅力を感じました。実際に中原は北海道、上司である寺内は大阪にいます。従来の型にはまらずに自由に働くことのできる環境が、研究を進める上でも良い効果をもたらすのではないかと感じました。

新しい働き方によってこれからの会社のあり方を提示することに加え、FMTの社会実装によって医療・創薬に新たな革新を起こすことという、2つの意味で新たな“前例を作っていく”試みに、入社時も現在もとても共感しています。

アクションのその先まで見える、一歩進んだ研究

現在取り組んでいるバイオインフォマティクスを駆使した研究は、ヒトの便に含まれる腸内細菌叢が持つ遺伝子や化合物を解析することで、どのような腸内細菌がどのくらいいるのか、またその腸内細菌がどのような物質を作っているのかを明らかにしようといます。もともと大学時代から取り組んでいた研究ということもあり、古巣に帰ったような感覚で、経験を活かして楽しみながら取り組むことができています。

1番意義深く研究としておもしろいと感じていることは、FMTを実施した患者さんのその後の経過観察により、「どのような処置でどのくらい症状が改善したか」といったところまで追えるという、“アクションのその先まで見える”ということです。これまでは「良いか悪いか」を明らかにするところまでが研究目的でしたが、現在は実際の患者さんと対峙し、実際に治療を行い経過を見てその後の結果までも研究データとして活用することができます。そういった点で、よりよい治療法開発を目指すことができますし、1歩先に進んだ研究成果の社会実装を行えているという感覚があります。

企業で研究に打ち込むやりがい

MGTxの“らしさ”は、それぞれポジションや上下関係に左右されることなく、分け隔てなくコミュニケーションができるというところです。イメージとしては、社内でみんながそれぞれの専門性で強い責任感を持ち、1人ひとり小さい会社を経営しているような感じです。それが、自由でラフでありつつ、自身の意見をしっかり発言できること、それが研究の推進にも大いに貢献していると思っています。

今後は、目的に向かって自発的に仕事の流れを組むことができ、やることを“絞れる”人にジョインしてもらいたいです。私自身は、MGTxで潰瘍性大腸炎をはじめ、現状の医療技術で治療することが難しい病気に悩む患者さんを救うため、より有効な治療法を確立することを目指し、日々尽力しています。

その実現に向け、達成目標は大きく分けて3つあると考えています。1つ目は、「効率の良いFMTの開発」です。現段階で有効性が認められているFMTを治療法のひとつとして普及させるための体制を整えるとともに、腸内細菌を使った生菌製剤を新たに開発することによるFMTの治療の効率化が必要です。2つ目は「潰瘍性大腸炎以外の疾患に有効なFMTの開発」、3つ目は「あらゆる病気を治療するためのFMTの開発」です。バイオインフォマティシャンとしてFMTの有効性をさらに明らかにし日本で初めて社会実装することで、さまざまな病気で苦しむ患者さんの願いを叶えたいです。それが、大学ではなく企業で研究に打ち込むやりがいでもあると思っています。