私が腸内細菌の可能性に触れたのは、米国でのバイオベンチャーの起業と失敗経験を経て、帰国後ベンチャーキャピタリストとしてバイオ・ヘルスケア関連のベンチャー支援に携わっていたときでした。
2003年に終了したヒトゲノム計画以降、解析技術の革新により腸内細菌に関する研究が急速に進み、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)が、消化器疾患に限らずさまざまな病気に関連することが明らかになってきています。いまや世界中で、さらなる臨床研究やその成果に基づいた医薬品開発がさかんに行われるようになりました。
そんな科学と技術が著しく成長中であるこの過渡期に、腸内環境研究をそれぞれの専門性で推進し、世界的にも顕著な成果を上げている石川、福田、山田という、最高のメンバーに出会いました。
日本のFMT(腸内細菌叢移植)の第一人者であるCMOの石川、腸内細菌叢のメタボロゲノミクス解析*とバイオインフォマティクス解析において世界トップレベルの研究を行う福田と山田、そして私の4人で、MGTxを創業しました。その後、製薬大手で創薬研究を牽引してきたCSOの寺内が加わり、基礎研究を社会に還元するためのまさに架け橋となるような強固なチームとして、「FMTの社会実装」と「マイクロバイオーム創薬」の日本初の実現を目指し、歩みを進めています。
*どのような腸内細菌がどのくらいいるか、また、それらの腸内細菌がどのような代謝物質を産生しているかを調べる、メタゲノミクスとメタボロミクスを組み合わせた独自の解析手法
FMTは、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を、患者の腸内に移植することでディスバイオーシスを改善するという新しい治療法です。海外ではこの画期的な手法が徐々に承認され始めています。さらに、FMTなどの臨床研究で腸内細菌による治療効果を確認した後に医薬品に落とし込むリバーストランスレーショナルなマイクロバイオーム創薬は、従来よりも高効率な創薬を可能にし、患者さんのもとへいち早く効果のある薬を届けることにつながります。
これらの「FMT」と「マイクロバイオーム創薬」は、腸内細菌研究成果に基づく新たな医療・創薬として、さまざまなアンメットメディカルニーズに応えられる可能性があります。私たちのミッションは、「マイクロバイオームサイエンスの力で、患者さんの願いを”叶え続ける”」ことです。今はない医療や薬を必要とする患者さんがいる限り、加速を止めることはありません。腸内細菌科学の力で、これまで果たせなかった患者さんの願いを叶えることができる。ブレイクスルーとなる科学・技術の登場とこれ以上ないかけがえのないチームが集まったこのタイミングは、新しい医療・創薬を切り拓く、またとない好機です。この大きな可能性を秘めた分野で、私たちMGTxは患者さんを笑顔にするべく、一歩一歩前進し続けます。
メタジェンセラピューティクス株式会社
代表取締役社長CEO
中原 拓