MGTx STORYでは、メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)の各メンバーが、入社のきっかけや事業にかける思いを語ります。今回は、MGTxで腸内細菌叢移植(FMT)の事業開発に取り組む、田村洋人のストーリーです。
田村 洋人(たむら・ひろと)
メタジェンセラピューティクス株式会社 医療サービス部 事業開発担当
<経歴> 東京大学大学院 情報理工学系研究科卒業 修士(情報理工)。大手精密機器メーカーにて研究開発、企画管理、事業開発などを担当後、2022年1月にMGTx入社。社会人学生として東京工業大学で技術経営課程(MOT)に通学中。テーマは、マイクロバイオーム×デジタルヘルス。
研究成果の事業化に立ちはだかる“大きな溝”に課題感
私はもともと機械やロボットが好きで、幼少期はゲームを作ることかエンジニアになることが夢でした。大学に入学しても一貫して、ロボットを中心とした機械系や情報系の分野を勉強し、修士課程ではロボットの触覚部分になるマイクロセンサーや音波の計測に関する研究をしました。「研究最高」と思えるほど、当時の私はやりがいを感じて取り組みました。まさか腸内細菌の研究をするなんて、当時の自分は思ってもみなかったでしょうね(笑)
その後は、研究成果を社会に還元したいという思いからエンジニアとして企業に就職する道を選びました。せっかくなら“世界一”をやっている企業を志望しようと思い立ち、大手機器メーカーに入社することになりました。最初は開発の部署に配属しましたが、その後何度か部署を異動し、エンジニアからコーポレート、ビジネスサイドなど多岐にわたる業務を担当しました。
「研究がおもしろい」という思いが起点となり、研究成果が事業に結びつくまでの大きな溝、そこをどう乗り越えてビジネスとして成り立たせるかという部分に注力することで社会に貢献したいという気持ちでいたので、それを体現できるような仕事ができるよう、模索し続けていました。
ある疾患の罹患がきっかけで知った「腸内細菌」の世界
そんな中、人生の転機とも言えることがありました。もともと病弱なほうではあったのですが、メーカー勤めをしていた最中の2017年に、過敏性腸症候群(IBS)の診断を受けたんです。IBSは、慢性的な腹痛や下痢や便秘など便通に異常をきたす病気で、 わたしの場合は 消化管の不調以外にもさまざまな症状に悩まされました。2018〜19年の当時は社会人としての生活をギリギリ保てていたような状態でした。
それがきっかけで、症状を改善するためにさまざまな文献を読み漁りました。論文をいくつも読むうちに、次第に腸内細菌がキーなのではないかという仮説にたどり着きます。腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)が、私の病気にも関連があるのではないかと思い始めました。知れば知るほど、腸内細菌がヒトの健康に与える影響について実感し、私の中で意識の大きなパラダイムシフトが起こったような感覚がありました。
結果的に、治療によって体調が少し改善し、より充実した生活を送れるようになりました。ただ完全に回復というわけではなかったため、ひとまず、社内でできることをやろうという気持ちから、機器メーカーでありながら腸内細菌を絡めたビジネスを事業化できないかと模索し、社内の勉強会等を企画開催したりもしました。
アイデア→事業化への想いを胸に、MGTxへ
MGTxのことは設立初期から知ってはいましたが、その頃はまだ体調が万全ではなかったため、人材募集の要項は見つつも、大企業にしがみつくことを優先していました。しかし、大手でアイディアを事業化まで持っていくことは難しく、なかなか取り組みが花開くことはありませんでした。そういったことからも、心から惹かれた腸内細菌の領域に足を踏み入れようと思ったのかもしれません。
MGTxで事業開発担当の募集がなされていたことを思い返し、前回は体調面を考慮し断念しましたが、今回は応募してみようと思い立ちました。異分野からの転職ということもあり、一定期間お試しで仕事をしてみた末に、代表の中原から「ぜひ」と声をかけてもらいました。私としては、まだ大手にしがみつくべきなのではという迷いもあったのですが、MGTxのオープンマインドな雰囲気や自身の病気の経験を活かして働きたいという気持ちから挑戦してみようと思い、入社を決めました。
「患者さんの願いを叶える」というやりがい
MGTxに入社してからは、腸内細菌叢移植(FMT)事業の立ち上げに奔走しています。FMTとは、健康な人の便に含まれる腸内細菌叢を患者さんの腸に移植することで、ディスバイオーシスを改善し、疾患の治療を試みる医療技術です。予算管理をはじめ、設備導入やFMTの溶液製造のための試作品設計、薬事の研究計画書作成など、幅広い業務内容に携わってきました。FMTが社会実装されたら多くの患者さんの願いを叶えることができるという社会的な意義を考えると、日々の業務へも身が入ります。
大手企業に比べるとベンチャーでは個々の裁量も大きく、業務も多岐にわたります。社内政治が一切ありませんし、そのリソースを大事なことに使えるという点でもメリットを感じています。日々の変化が大きく、不確実性が高い、これまで話していたことが翌週には覆っているということも多々ありますが、そのようなハプニングが起こることにも楽しさを感じます。同じことをずっと続けていると飽きてしまう性格のため、その点でもベンチャー気質だったのかもしれませんね。
腸内細菌の研究は私からすればまったくの異分野の領域でしたが、それで苦労したことは現時点ではありません。腸内細菌がすごく好きという気持ちが大きいからですかね。これからも腸内細菌について探求を続け、自分なりに努力していきたいと思っています。
国内マイクロバイオーム研究の最先端
世界では、腸内細菌などのマイクロバイオーム*に関する研究が進んでいます。そして、その研究成果が医療の現場で活かされ始めています。日本でマイクロバイオームをやるなら、ここ(MGTx)しかないと、思っています。
日本でマイクロバイオームによる医療や医薬品開発に取り組んでいる企業があるということが、ここが自分の居場所なのではないかと思える要素となっています。MGTxのメンバーはそれぞれの個性が爆発しているくらいみんな違うのですが、「マイクロバイオームの可能性を信じている」という点に関しては、みんなに共通して言える“MGTxらしさ”かなと思います。サイエンスが好きで、不確実性を楽しめる感性があり、医療でイノベーションを起こしたいという情熱がある人に仲間になってもらえたらいいですね。
*マイクロバイオーム:腸内や皮膚・口腔などヒトは体のいたるところに存在する微生物の集団(細菌叢)
“人生 ガチ勢”として目指す未来
異分野から参画を希望した私に代表の中原がかけた言葉は、「パッションだけで来てください」でした。一番買っているのはパッション(情熱)だと。入社を決断する際、その言葉が背中を後押ししてくれました。そして、そのパッションは今でも継続しています。
私はいわゆる“人生ガチ勢”の部類の人間だと思っています。「過程」よりも「結果」を重視する価値観を意味しているのですが、目標達成に至るまでに困難に陥ったとしても、その果てに何かを成し遂げることができれば、私は人生にやりがいを感じられます。FMTの事業化に向けて今後大変なこともあるかもしれませんが、病気に苦しんだ患者のひとりとして、ディスバイオーシスのない世界の実現という目標に向かって突き進んでいきたいです。
患者さんの願いを叶え「続ける」こと、それが私の願いであり、MGTxの存在意義だと強く思います。多くの患者さんにとっての本当の願いは、病気や治療から解放されることだと考え、 MGTxが目指すFMTの社会実装によってこれを可能にしたいという想いを「続ける」という言葉に込めました。ディスバイオーシスがない世界、限りなく病気のない世界が実現できると、心から信じています。